【インプラントの失敗と対策】
インプラントの失敗を分析する
@手術の失敗
(1)増骨手術の失敗(2)下歯槽神経の損傷
(3)上顎洞への迷入
Aインテグレーションの失敗
3ヶ月後インプラントが骨と結合していない。B人工歯製作の失敗
製作した人工歯の色や形態が口腔内になじまない。Cインプラント周囲炎
手術後、数年してインプラント周囲の骨が溶けてインプラントが抜けてくる。インプラント問題の第一位はこれ。D人工歯の破損
治療後数年経過して、人工歯が壊れたりスクリューが緩んだりする。@手術の失敗
1)増骨手術の失敗
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サイナスリフト ソケットリフト上顎の臼歯部は3〜4割くらいの方の骨が薄く普通にインプラントが埋入できません。そのため上顎洞という空間に手術で人工骨を置き、数ヵ月後に人工骨が天然骨に置換することを期待する治療法です。
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GBR骨幅が狭い所にインプラントを置くときのテクニックです。インプラントを骨に埋めた後、インプラントが露出したところに人工骨を置いて、膜を被せて数ヵ月後天然骨になる事を期待する治療法です。
A)増骨手術は行っておりません。
当院では骨の豊富な方に限定してインプラントを入れる方針ですので、そもそも増骨手術を行っておりません。増骨手術は手技が複雑なため感染のリスクもあり、インプラント手術の多くは増骨手術の失敗です。2)下歯槽神経の損傷
下顎の奥歯をインプラントにするときに、下歯槽管という神経と血管が通る場所をドリルで損傷することにより、出血や知覚麻痺が起こります。
2007年には東京で、ドリリング時の出血により死亡事故も発生しています。この事故の後、インプラントは危ないという認識が広まりました。
2007年には東京で、ドリリング時の出血により死亡事故も発生しています。この事故の後、インプラントは危ないという認識が広まりました。
CTを使ってシュミレーションをしてリスクを回避します。
現在はCTで3次元的な骨の形態が正確に把握できます。0.1mm単位でのプランニングが可能です。また私は骨量が豊富な方にしかインプラントをしませんので、下歯槽神経ギリギリの入れ方をする必要がありません。
シュミレーション例
当院で行うインプラントで最も短いインプラントは8mmの長さのインプラントです。CTを撮影しシュミレーションをして、下歯槽管までの距離を正確に測ります。安全に2mm以上の余裕を持たせる計画ですので最低10mmの骨の深度がない方はインプラント手術を行いません。つまりはじめから下歯槽神経に届かないインプラントしか使用しておりません。A)発生確率は非常に低いと考えております。
この様に、下歯槽神経まで十分な距離のある方だけ手術をしております。神経までの距離も15mmとか、20mmとか余裕があり、かつ骨幅も10mm、15mmなど余裕がないとインプラントをお勧めしておりません。3)上顎洞へのインプラント迷入
インプラントが上顎洞に入ってしまうこと
上顎骨の臼歯部には上顎洞という空洞があり、この空洞が大きい小さいは生まれつき個人差があります。上顎洞が大きな方は骨が薄いということになり、インプラントを打つには骨に厚みが足りません。例えるならベニヤ板にネジを入れるようなもので、押し込むと中に入ってしまいます。薄い骨に無理にインプラントを入れると、ちょっとした衝撃でインプラントが上顎洞に入ってしまい、取り出しにくくなってしまいます。
サイナスリフトやソケットリフトの手術後、数日してインプラントが上顎洞の中に入ってしまって、くしゃみをしたときに、鼻からインプラントが出てきたという事例もあります。
上顎洞まで骨の厚みのある方限定で手術をしています。
CTにより上顎洞までの距離を測定しておきます。当院でもっとも短い8mmでも上顎洞には届かない場合のみ手術を行う方針です。よって当院にて上顎洞迷入のリスクは低いと考えており、過去にも一度もございません。A)発生確率は非常に低いと考えております。
このように骨に厚みがありインプラントを固定するのに十分な骨量のある方だけ手術をしております。インプラントの穴の底は骨の壁が確保されているわけですから、上顎洞に抜ける確率は非常に低いと考えております。
Aインテグレーションをしない失敗
インテグレーション成功率は97%です。
100本中3本は骨とくっつかない
インプラント手術をして当院では3ヶ月待つのですが、3ヶ月後骨とくっつく(インテグレーション)のは100本中、約97本であり、約3本はインテグレーションをしません。つまり3本は失敗ということになります。この数字は現在のインプラント治療においては妥当な数字です。失敗3%の多くは術後1ヶ月以内で抜けてしまう
インテグレーションの失敗のうちの多くは術後数週間で違和感を感じ、来院していただき確認すると大きな動揺があり失敗の診断が下されます。抜けてくる時は痛みはほとんどありません。
3ヶ月以内に抜けてくるインプラントの多くは痛みもなく抜けてしまいます。出血もあまりありません。なぜインテグレーションしなかったのか?
骨にドリルで開けた穴から固定したインプラントが動いてしまって隙間に唾液が入り感染を起こすパターンが多いです。お口の中ですから動いてしまうこともあります。A)インテグレーション率100%はありえません
当院において平成27年〜30年までに1850本のストローマンインプラントを埋入しましたが、55本がインテグレーションをしませんでした。確率にすると2.97%が失敗なります。そのため30本埋入して1本くっつかない確率ですと説明しております。インプラント手術を受ける上で同意いただきたいのは手術を受けて3ヶ月後全てのインプラントがインテグレーションをしているわけではなく数%の確率で抜けてしまうので再手術が必要になるという点です。 この数字はどの歯科医院、大学病院でも同じ水準で起こり得ますので、再手術の件もご納得の上インプラント手術を受けてください。
抜けた後は再手術となります。
インテグレーションをしなかった場合は、数ヶ月待ってから再手術するパターンと、すぐに再手術するパターンがあります。治療費の追加はございません。再手術の成功率も97%ですから、何回も失敗することは確率的にみて非常に小さな数になります。
B人工歯の失敗
合わない人工歯を装着された
人工歯の噛み合わせが悪い
実はこのトラブルはかなりあります。人工歯を入れたらほほ肉を噛んでしまう。舌を噛んでしまう。発音がしづらい。噛みにくい。食べ物が詰まる。前歯の形が悪い。正中があっていない。色があっていない。試し歯を入れていただく
まずはプラスチックの試し歯を製作し、患者様に装着して数日間、ご使用いただきます。このプラスチックの歯はコンピューター上のCADで設計して削り出したものです。使用していただいた中で問題点があれば、お話を伺い、2代目の試し歯を製作して再びsetしてご使用いただきます。A)試し歯で理想の形態を見つけてから本歯の製作を開始します。
試し歯を使用していただき患者様からのOKを頂いてからその形態で製作できますので、イメージ通りの理想的なジルコニア人工歯が出来上がってきます。Cインプラント周囲炎
1)インプラント最大の敵
インプラント周囲炎にならなければインプラントは長持ちします
インプラントを入れて数年後、インプラントの周囲の歯肉腫れてきたり、骨が溶けたりする疾患のことです。インプラント周囲炎の進行が進むと最終的には抜けてきます。歯周病と同じ末路を辿ります。
京セラ製インプラントを入れて4年後、インプラント周囲の骨が溶けている。歯肉も少し腫れている。痛みは特にないが、患者様の自覚症状としては歯ブラシをする時、出血が気になるということくらい。
手術から5年で抜けてきてしまった。クリーニングは半年に1度は受けていたのにインプラント周囲炎になってしまった例です。
抜けてから、骨が回復する期間(5ヶ月)待って、ストローマンインプラントで保証しました。
現在はインプラント周囲炎の兆候もなく、快適に過ごされています。
抜けてから、骨が回復する期間(5ヶ月)待って、ストローマンインプラントで保証しました。
現在はインプラント周囲炎の兆候もなく、快適に過ごされています。
2)インプラント周囲炎の経過
@正常な状態のインプラント
正常な状態では、インプラントは骨と結合しています。この状態を維持する限り、インプラントが骨から抜けることはありませんので、生涯長持ちするはずです。Aインプラント周囲炎の起こり
インプラント周囲炎は、歯肉から起こります。歯肉と人工歯が少し剥がれてポケットが生まれます。そして歯肉炎も見られ、軽い出血もありますが、自覚症状はほとんどありません。このポケットには細菌がたまりやすくなります。B徐々に進行
進行すると歯肉の炎症から、骨の炎症に発展してきます。骨が融解していき、歯肉も腫れが自覚できるようになります。インプラントの周囲には深いポケットが発生し、細菌の隠れ家となります。あとは歯周病と一緒で、細菌をポケットから清掃で追い出すしか、インプラント周囲炎の進行を食い止めるしか方法がなくなります。C進行期
さらに進行すると排膿してきます。歯ブラシをかけると出血してくる日もあれば、出血がおさまる日もあります。D出血と動揺
末期になると咬合痛が生じ、インプラントが揺れてきます。骨とインプラントが接している部分もほぼ無くなります。痛みは少ないことが多いです。E最終的には抜けてきます。
歯周病と同じ末路を辿ります。ここまでになるには数年かかります。3)インプラント周囲炎の実例
当院で起きたインプラント周囲炎の例です。
京セラ製インプラント手術して5年後、インプラント周囲を歯ブラシすると出血が見られるようになったので、レントゲンを撮影しました。
すると、インプラント周囲の骨が黄色のラインで示すように融解していました。
細菌が入らないように清掃を3ヶ月に1度行いました。症状は一進一退を繰り返しましたが、完治することはありませんでした。
京セラ製インプラント手術して5年後、インプラント周囲を歯ブラシすると出血が見られるようになったので、レントゲンを撮影しました。
すると、インプラント周囲の骨が黄色のラインで示すように融解していました。
細菌が入らないように清掃を3ヶ月に1度行いました。症状は一進一退を繰り返しましたが、完治することはありませんでした。
さらに4年後、動揺が強くなってきました。
最後の1週間は噛むと痛みがあり、グラグラと動揺がしてきて、来院されました。インプラント周囲炎の末期と説明し、麻酔をして、指で挟んで簡単に抜けてきました。
インプラント周囲炎は激烈な症状(痛み、腫れ)があるわけではありません。血もほとんど出ません。
インプラント周囲炎は激烈な症状(痛み、腫れ)があるわけではありません。血もほとんど出ません。
手術から9年半で抜けてきたインプラント。
インプラント周囲炎の末期のインプラントは大変な手術をして撤去するわけではなく、むしろあっけないくらい簡単に抜けてしまいます。
抜けてきた部分の骨は、半年すると元の状態になりますので、今度はストローマンインプラントを打ち直すことになりました。当院では10年以内に抜けてしまったインプラントは無料で打ち直します。
インプラント周囲炎の末期のインプラントは大変な手術をして撤去するわけではなく、むしろあっけないくらい簡単に抜けてしまいます。
抜けてきた部分の骨は、半年すると元の状態になりますので、今度はストローマンインプラントを打ち直すことになりました。当院では10年以内に抜けてしまったインプラントは無料で打ち直します。
4)インプラントが抜けた後どうなるのか
数か月待つと骨が戻ってきます。
インプラント周囲炎とはインプラントと歯周組織(歯肉、骨)との間に歯周病と同じ細菌が引き起こす感染です。よってインプラントが抜けてしまえば細菌が介在する隙間はなくなりインプラント周囲炎が成立しなくなります。要するに細菌の侵入経路が遮断されるわけです。感染炎症がなくなれば、吸収された骨はまた一定の高さまで戻ってきます。この期間は目安として6ヶ月前かかります。
骨が以前と同じ高さになるのか
インプラント周囲炎が大きく骨吸収が大きい場合、骨が戻りにくいことがあります。つまりは骨の高さが低くなってしまうこともありますし、以前と同じ高さまで戻ることもあります。大きい周囲炎ほど治癒に時間はかかりますので8ヶ月、10ヶ月待っていただく場合もある可能性はあります。
6ヶ月後、骨の高さがインプラントを入れるのに問題ない骨量となれば、もう一度インプラントを入れることができるし、もう入れ歯でもいいやと思えば入れ歯を作ってもいいかと思います。
5)インプラント周囲炎の発症率
A)インプラント周囲炎の発症率は1.8%
ストローマンインプラントが10年以内にインプラント周囲炎を発症する確率は1.8%(スイスのベルン大学調べ 詳しくはこちら)当院でもこの程度のインプラント周囲炎が発生しております。
10年の生存率は98.8%
ストローマンインプラントが10年後に残っている可能性は98.8%です。(スイスのベルン大学調べ 詳しくはこちら)
つまり100本いれたインプラントのうち1本か2本は10年後までに抜けてくるという確率です。これを高いと見るか低いと見るかは個人の主観によっても違ってくるのですが、ブリッジと比べてみましょう。
メタルブリッジの10年の生存率は31.9%
メタルブリッジを入れて10年後、口腔内に残っているのは3割くらいという事です。7割は何らかの理由でなくなってしまったという事です。(出典元はこちら ※口腔衛生会誌 J Dent Hlth 58:16−24,2008 圈 臼歯部修復物の 生存期間に関連する要因 青山 貴則 相田 潤 竹原 順次 森田 学)メタルブリッジと比較をするとインプラントは長持ちをする確率が非常に高い
他の歯科技工物同様にインプラントもダメになることはありますが、データを比較してみると長持ちする確率は非常に高いと言えると思います。6)インプラント周囲炎の予防策
定期的な歯のクリーニング
インプラント周囲炎の予防には3〜6ヶ月に一度の歯科医院にてのクリーニングが大切です。普段、ご自身では取りきれないプラークを歯科衛生士にとってもらいましょう。ストローマンインプラントを使う
上記のデータはストローマンインプラントを第三者機関であるITIが追跡調査をした結果ですので信頼性の高いデータです。このような信頼性の高いデータがオープンになっているメーカーは非常に少数です。しっかりとした学術的根拠(エビデンス)を持っているインプラントメーカーを選びましょう。
スクリューリテインが有利です。
人工歯とインプラントを接着剤で固定するのではなく、スクリューで固定する方法をスクリューリテインと言いますが、早期のインプラント周囲炎が起きた場合、人工歯を外して清掃がしやすいので治療に有利に働きます。また、セメントリテインの場合は接着剤が残ってしまいプラークが溜まりやすいのに比べ、スクリューリテインはセメントの残渣はおこりません。